この おはなし を よみました ♪
『 ちゅうもん の おおい りょうりてん 』
にほん の どうわ みやざわ けんじ / げんさく
ちゅうもん の おおい りょうりてん
ふゆ の あるひ、 しゃれた いぎりす の へいたいさん みたい な ふく を きた わかもの ふたり が おくぶかい やま の なか を あるきまわって いました。
かた に は ぴかぴか の てっぽう を かつぎ、 おとも の にひき の いぬ は しろくま ほど の おおきさ でした。
「へん だ な。 この やま に は、 とり も けもの も いっぴき も おらん ようだ な。
なんでも いい から えもの を しとめたい もの だ。 ほんとう に。」
「わたし は しか を うって みたい な。 そいつ は くるくる まわって、 それから どっと たおれる で しょう ね。」
いつのまにか、 あんないにん の りょうし と も はぐれ、 ふたり は おくぶかい やま の なか で まいご に なって いました。
そのうえ、 にひき の しろくま ほど も ある おおきな いぬ が ふらふらっ と した か と おもう と、 うなり、
くち から あわ を ふいて しんで しまいました。
「だいそんがい だ。」 と しんだ いぬ の まぶた を ちょっと かえして みて ひとり が いいました。
「まったく。」 もう ひとり は、 しんだ いぬ を みおろして いいました。
「ここ は きみ が わるい な。 もどった ほう が いい な。」 ちょっと あおじろい かお で ひとり が いいました。
「そう です ね。 さむく なって きた し、 はら も へって きました。 もどり ましょう。」
かぜ が つよく ふきはじめ ました。 やま の あちこち で くさき が、 さわさわ、 かさかさ、 おと を たてて いました。
「はら が へって きた。 もう あるく き も なくなった。」
「わたし も です。 あったかい もの が ほしい です。」
ふりかえる と、 りっぱ な せいようふう の たてもの が め に とびこんで きました。
その かんばん に は こう かいて ありました。
せいよう りょうり てん 【やま ねこ てい】
「ちょうど いい や。 はいろう ぜ。」
「でも ちょっと へん じゃ ない です か。 こんな やまおく に りょうり てん が ある なんて。
ほんとう に しょくじ を だして くれるんです か ね。」
「だいじょうぶ だ よ。 『せいよう りょうり てん』 って かいて ある じゃ ない か。」
「とにかく はいって みましょう。 おなか が へって たおれ そう です。」
いりぐち に いく と はりがみ が はって ありました。
【どなた で も かんげい ごえんりょ なく】
ふたり は とても うれしく なりました。
「ありがたい。 やま を さまよい あるいて たいへん だった けど、 ただ で しょくじ を だして くれる みせ を みつけた ぜ。」
「そう です ね。 『ごえんりょ なく』 って の は ただ って こと です よ ね。」
いりぐち を あける と、 その うらがわ に べつ の はりがみ が ありました。
【ふとった かた わかい かた だいかんげい】
「おれたち ふたり は だいかんげい と いう こと だ。」
「そう です ね。 わたしたち は ふとって いる し、 わかい です から ね。」 ふたり は おおよろこび でした。
ちょっと ろうか を いく と、 あおい とびら が ありました。
「へん だ な。 どうして この みせ に は とびら が いくつ も あるんだ。」
「この みせ は、 きっと ろしあ しき なんです よ。 あの くに では、 さむい ところ や やま の たかい ところ に こんな いえ が ある そうです。」
あおい とびら を あけよう と すると、 また はりがみ が ありました。
【とうてん は ちゅうもん の おおい りょうり てん ごりかい を】
「こう いう みせ が やま の なか で は にんき が ある に ちがい ない。」
「そう です ね。 おいしい しょくじ を だす みせ は まち の なか だけ と は かぎりません から ね。」
そう いって、 とびら を あけました。 すると また その うらがわ に はりがみ が ありました。
【ちゅうもん が おおい です が ごしんぼう を】
「いったい どう いう こと だ。」 ひとり が かお を しかめました。
「この おみせ は ちゅうもん が おおい から、 しょくじ を つくる の に てま が かかる と いう こと でしょう。」
「たぶん そう いう こと だろう な。 とにかく しょくじ を だして くれる へや に はいりたい な。」
「はやく しょくたく に すわりたい です。」
ところが また べつ の とびら が ありました。 とびら に は かがみ が かかって いました。
かがみ の した には、 ながい え の ついた ぶらし が おいて ありました。 その とびら に も はりがみ が ありました。
【しんし しゅくじょ の みなさん
かみのけ は きちん と
くつ の どろ は おとす よう に】
「きゃく は みだしなみ が よくない と な。 もっとも な こと だ。」
「この おみせ では れいぎ さほう が きちん と して いない と いけないんです。 えらい ひと が きて いる に ちがい ありません。」
ふたり は ぶらし で かみのけ を とかし、 くつ の どろ を おとしました。
ぶらし は、 ゆか に もどした とたん ぼーっ と かすんで きえて しまいました。
かぜ が ひゅー と へや に ふきこんで きました。
びっくり して、 ふたり は み を よせあい、 とびら を あけて、 つぎ の へや に とびこみ ました。
こんど こそ、 と おもいました が、 てーぶる も いす も ありません でした。
また べつ の とびら が あり、 また はりがみ が ありました。
【てっぽう と だんがん は この だい の うえ に】
「たしかに、 てっぽう を かついで しょくたく に つく の は しつれい だ。」
「そのとおり です。 えらい ひと が きて います から ね。」
こんど は、 くろい とびら。 また はりがみ。
【ぼうし と くつ は ふよう】
「どうして ぬぐんだ。」
「しかたない です よ。 ぬぎましょう。 えらい ひと が へや に いるんです から。」
ぼうし を かけ、 くつ を ぬいで つぎ の へや に はいりました。
その くろい とびら の うら に、 また はりがみ が ありました。
【めがね さいふ きちょうひん は きんこ の なか へ】
なるほど、 おおきな くろい きんこ が、 と が あいた まま おいて あって、
とびら の はりがみ の した に かぎ が かけて ありました。
「たしか に、 こう いう もの は しょくじ と は かんけい ない よ な。」
「かんじょう は かえる とき、 ここ で はらうんだ と おもいます。」
ふたり は、 めがね を はずし、 きちょうひん は みんな きんこ に いれて かぎ を かけました。
すこし いく と また べつ の とびら です。
【つぼ の くりーむ を かお うで あし に ぬる こと】
とびら の まえ に がらすせい の おおきな つぼ が ありました。
「くりーむ を ぬる って どう いう こと だ。」
「そと が さむかった から、 あたたかい へや の なか で ひびわれ しない よう に だ と おもいます。
こうき な ひと が いる の に まちがい ありません。
かおみしり に なれる か も しれません。」
ふたり は かお、 りょうて、 りょうあし に つぼ の くりーむ を ぬりつけ ました。
いそいで とびら を あけました。 また とびら の うら に はりがみ が ありました。
【みみ に も くりーむ わすれず に】
「おっと、 わすれる ところ だった。 ここ の りょうりちょう は こまかな ところ にも よく き が つく ね。」
「もう、 おなか が ぺこぺこ です。 いつ に なったら しょくどう へ いける の でしょう。」
ふたり が あるいて いく と、 また べつ の とびら に はりがみ が ありました。
【しょくじ は あと じゅうごふん こうすい を かみのけ に】
ふたり は とびら の まえ に ある きんいろ の ちいさな こうすいびん を て に とる と、 かみのけ に こうすい を かけました。
こうすい は す の ような におい が しました。
「この こうすい、 なんだか す の ような におい だ な。」
「こうすい びん と す の びん を まちがえた の だ と おもいます。」
とびら を あける と、 また うらがわ に べつ の はりがみ が ありました。
【ちゅうもん が おおくて しつれい さいご の ちゅうもん つぼ の しお を からだ ぜんたい に まんべんなく】
しお が いっぱい はいった つぼ が ありました。 さすが に ふたり は あやしんで かお を みあわせ ました。
「へん だ。」 「たしか に へん です。」
「ちゅうもん が おおすぎる。」
「わたし が おもう に、 ここ は せいよう りょうり を だす つもり なんか ないんだ。
わな に かかった やつ を りょうり して くおう と して いるんだ。
と いう こと は、 わたしたち が・・・たべ・・・られる・・・」
それ いじょう は いえず に、 ふたり は がたがた ふるえ はじめました。
「にげた・・・ほう が・・・」
ふたり は うしろ の とびら を あけよう と しました が、 びく と も しません。
ろうか の むこう の さいご の とびら に はりがみ が ありました。
【じょうでき ごえんりょ なく おはいり ください】
とびら には おおきな ふたつ の あな が あいて いて、 そこ から ふたつ の ひかる あおい め が こちら を にらんで いました。
「うわーっ!」 ひとり が、 ふるえながら さけび ました。
「あーっ!」 もう ひとり も きょうふ で ぜんしん ふるえ ながら さけび ました。
とびら の うら から だれか の ひそひそごえ が きこえて きました。
「からだ に しお を こすり つけて ない よ。」
「おやぶん の かきかた が まずかったんだ。 『ちゅうもん が おおくて しつれい』 なんて かく から だ。」
「おやぶん は わけまえ を くれない ぜ。 きっと なにも、 ほね さえ も くれない ぜ。」
「やつら が はいって こない と、 おれたち の せい だ、 と いって おやぶん は きっと おこる ぜ。」
「よんで みよう。 やあ、 おきゃくさん。 はやく いらっしゃい。 りょうり の じゅんび は できて ます よ。
なっぱ の しおもみ と まよねーず を まぜれば できあがり です。 さあ はやく いらっしゃい!」
ふたり は きょうふ で わなわな と ふるえながら、 なきだし ました。
「さあ、 いらっしゃい! そんな に なかない で。 かお の くりーむ が おちちゃいます よ。
しゅじん が ないふ を もって、 したなめずり して おまちかね です。」
ふたり は どう に も ならない じょうきょう に おちいり、 なす すべ が ありません でした。
ちょうど そのとき です。
とびら が こわれて、 おおきな いぬ が にひき、へや に とびこんで きました。
「うわん、 うわん、うわーん!」 いぬ は さいご の とびら に とびかかり ました。
へや の あかり が ぱっ と きえて、 とびら の むこうがわ で おおきな ものおと が しました。
だれか が しぬ か の ような、 ぎゃー と いう けもの の さけび が きこえて きました。
その しゅんかん、 へや は けむり の ように きえ、 ふたり は しろくま の ように おおきな いぬ にひき と、
のはら の まんなか に たって いました。
「だいじょうぶ です か。」
あんないにん の りょうし が ちかづいて くる の を みて、 ふたり は ほっ と ためいき を つきました。
おしまい
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