ふかい　ふかい　うみ　の　そこ　に、　さんご　の　かべ　と　こはく　の　まど　の　おしろ　が　あります。

その　おしろ　は、　にんぎょ　の　おうさま　の　おしろ　です。

おうさま　に　は　ろくにん　の　おひめさま　が　いて、　その　なか　でも、　とりわけ　いちばん　すえ　の　おひめさま　は　とても　きれい　でした。

その　はだ　は　ばら　の　はなびら　の　ように　すきとおり、　め　は　ふかい　うみ　の　ように　あおく　すんで　います。

にんぎょたち　の　せかい　では、　じゅうごさい　に　なる　と　うみ　の　うえ　の　にんげん　の　せかい　を　み　に　いく　こと　を　ゆるされて　いました。

すえっこ　の　おひめさま　は、　おねえさん　たち　が　みて　きた　にんげん　の　せかい　の　ようす　を、　いつも　むね　を　ときめかして　きいています。

「ああ、　はやく　じゅうごさい　に　なって、　にんげん　の　せかい　を　みて　みたい　わ」

そうする　うち　に、　いちばん　すえ　の　おひめさま　も　ついに　じゅうごさい　を　むかえ、　はれて　うみ　の　うえ　に　でる　ひ　が　きました。

よろこんだ　ひめ　が　うえ　へ　うえ　へ　と　のぼって　いく　と、　さいしょ　に　め　に　はいった　のは　おおきな　ふね　でした。

「わあー、　すごい。　にんげん　て、　こんなに　おおきな　もの　を　つくるんだ」

にんぎょひめ　は　ふね　を　おいかける　と、　かんぱん　の　すきま　から、　そっと　なか　を　のぞいて　みました。

ふね　の　なか　は　ぱーてぃー　を　して　いて、　にぎやか　な　おんがく　が　ながれる　なか、　うつくしく　きかざった　ひとたち　が　だんす　を　しています。

その　なか　に、　ひときわ　め　を　ひく　うつくしい　しょうねん　が　いました。

それは、ぱーてぃー　の　しゅやく　の　おうじさま　でした。

その　ぱーてぃー　は、　おうじさま　の　じゅうろくさい　の　たんじょうび　を　いわう　ばーすでぃー ぱーてぃー　だった　のです。

「すてき　な　おうじさま」

にんぎょひめ　は　よる　に　なっても、　うっとり　と　おうじさま　の　ようす　を　みつめて　いました。

すると、　とつぜん、　うみ　の　けしき　が　かわりました。

いなずま　が　ひかる　と　かぜ　が　ふき、　なみ　が　うねり　はじめた　のです。

「あらしだわ！」

ふね　では、　すいふたち　が　あわてて　ほ　を　たたみます　が、　あらし　は　ますます　はげしくなる　と、　ふね　は　みるまに　よこだおし　に　なって　しまいました。

ふね　に　のって　いた　ひとびと　が、　あれくるう　うみ　に　ほおりだされ　ます。

「たいへん！　おうじさまー！」

にんぎょひめ　は　おおいそぎ　で　おうじさま　の　すがた　を　さがしだす　と、　ぐったり　して　いる　おうじさま　の　からだ　を　だいて、　はまべ　へ　と　はこび　ました。

「おうじさま、　しっかり　して。　おうじさま！」

にんぎょひめ　は　おうじさま　を、　けんめい　に　かんびょう　しました。

き　が　つく　と、　もう　あさ　に　なって　いました。

そこへ、　わかい　むすめ　が　はしって　きます。

「あっ、　いけない」

にんぎょひめ　は　びっくり　して、　うみ　に　み　を　かくしました。

すると　むすめ　は　おうじさま　に　き　が　ついて、　あわてて　ひと　を　よびました。

おうじさま　は　そのとき、　いき　を　ふきかえしました。

「あ、ありがとう。　あなたが、　わたし　を　たすけて　くれた　の　です　ね」

おうじさま　は　め　の　まえ　に　いる　むすめ　を、　いのち　の　おんじん　と　かんちがい　して　しまいました。

にんぎょひめ　は　しょんぼり　して　しろ　に　かえって　きました　が、　どうしても　おうじさま　の　こと　が　わすれられません。

「ああ、　すてき　な　おうじさま。　・・・そうだ、　にんげん　に　なれば、　おうじさま　に　また　あえる　かも　しれない」

そこで　まじょ　の　ところ　へ　でかける　と、　にんげん　の　おんな　に　して　くれる　よう　たのんでみました。

まじょ　は　にんぎょひめ　の　ねがい　を　きく　と、　こう　こたえました。

「そうかい、　そうかい。　にんげん　の　おうじ　に　あう　ため　に、　にんげん　の　おんな　に　ねえ。

なるほど。　まあ、　わたし　の　ちから　を　もって　すれば、　にんぎょ　の　しっぽ　を　にんげん　の　ような　あし　に　かえる　こと　は　できる　よ。

でも　その　かわり　に、　あし　は　あるく　たび　に　ないふ　を　ふむ　ように　いたむ　よ。

それと、　もし　おまえ　が　おうじ　と　けっこん　できなかったら、　おまえ　は　にど　と　にんぎょ　には　もどれない。

いや、　それどころ　か　しんぞう　が　やぶれて、　おまえ　は　うみ　の　あわ　に　なっちまうんだ。

それでも　いいんだ　ね」

「いいわ。　おうじさま　と、　いっしょ　に　いられる　の　なら」

「よし　よし、　ああ、　それから。　ねがい　を　かなえる　ほうび　に、　おまえ　の　こえ　を　もらう　よ。

おまえ　の　こえ　は、　うみ　の　せかい　で　いちばん　うつくしい　と　ひょうばん　だから　ね」

まじょ　の　ちから　で　にんげん　の　おんな　に　なった　にんぎょひめ　は、　くち　の　きけない　からだ　で　にんげん　の　せかい　へ　もどり、　おうじさま　の　おしろ　を　たずねました。

「おお、　なんと　うつくしい　むすめ　だ」

おうじさま　は　にんぎょひめ　を　ひとめ　みて　き　に　いり、　いもうと　の　よう　に　かわいがってくれました。

けれど　おうじさま　は、　じぶん　の　いのち　の　おんじん　と　おもいこんで　いる、　あの　はまべ　で　あった　むすめ　に　こころ　を　うばわれて　いた　のです。

やがて　おうじさま　と　むすめ　は、　けっこんしき　を　あげる　こと　に　なりました。

ふたり　は　ふね　に　のりこむ　と、　しんこんりょこう　に　むかいます。

おうじ　と　けっこん　できなかった　ひめ　は、　つぎ　の　ひ　の　あさ、　うみ　の　あわ　に　なって　しまう　のです。

しかし　にんぎょひめ　には、　どうすること　も　できません。

ただ、　ふね　の　てすり　に　もたれて　いる　ばかり　でした。

そのとき、　なみ　の　うえ　に　にんぎょひめ　の　おねえさんたち　が　すがた　を　みせました。

「まじょ　から、　あなた　の　ため　に　ないふ　を　もらって　きた　わ。

これで　おうじ　の　しんぞう　を　さしなさい。

そして　その　ち　を　あし　に　ぬる　のです。　そうすれば、　あなた　は　にんぎょ　に　もどれる　の　よ」

(もう　いちど、　にんぎょ　に！？)

にんぎょひめ　は　ないふ　を　うけとる　と、　おうじさま　の　ねむる　しんしつ　へ　と　はいって　いきました。

(おうじさま、　さようなら、　わたし　は　にんぎょ　に　もどります)

にんぎょひめ　は　おうじさま　の　ひたい　に　おわかれ　の　きす　を　する　と、　ないふ　を　ひといき　に　つきたてよう　と　しました。

「・・・・・・」

でも、　にんぎょひめ　には、　あいする　おうじさま　を　ころす　こと　が　できません。

にんぎょひめ　は　ないふ　を　なげすてる　と、　うみ　に　み　を　なげました。

なみ　に　もまれながら　にんぎょひめ　は、　だんだん　と　じぶん　の　からだ　が　とけて、　あわ　に　なっていく　のが　わかりました。

そのとき、　うみ　から　のぼった　おひさま　の　ひかり　の　なか　を、　すきとおった　うつくしい　もの　が　ただよって　いる　の　が　みえました。

にんぎょひめ　も　じぶん　が　くうき　の　ように　かるく　なり、　くうちゅう　に　のぼって　いく　の　に　き　が　つきました。

「わたしは、　どこ　に　いく　の　かしら？」

すると、　すきとおった　こえ　が　こたえます。

「ようこそ、　くうき　の　せい　の　せかい　へ。　

あなた　は　くうき　の　せい　に　なって、　せかいじゅう　の　こいびとたち　を　みまもる　の　です　よ」

にんぎょひめ　は、　じぶん　の　め　から　なみだ　が　ひとしずく　おちる　の　を　かんじながら、　かぜ　と　とも　に　くも　の　うえ　へ　と　のぼって　いきました。

おしまい