あま の はごろも

 

 むかし　むかし、　あるところに　おかあさん　と　ふたりだけ　で　すんでいる　おとこ　が　いました。

 あるひ、はま　へ　さかなとり　に　いった　かえり、　まつばやし　の　なか　を　あるいて　いると、　まつ　の　えだ　に　すきとおる　ような　うつくしい　ころも　が　かかっていました。

「おや、　これ　は　なんだろう。　それにしても　うつくしい　ころも　だ。」

おとこ　は　その　ころも　を　ふところ　に　いれました。

そのとき、　はやし　の　おく　から　ひと　の　こえ　が　きこえて　きました。

おとこ　が　そっと　のぞく　と、　なんにん　か　の　うつくしい　むすめたち　が　みずあび　を　していました。

「なんと　うつくしい　むすめ　たち　だ。　きっと、　この　よ　の　ひと　では　ない　な」

おとこ　が　みている　と、　むすめたち　は　みずあび　を　おえて、　ちかく　の　まつ　の　えだ　に　かけられた　ころも　を　きる　と、　そろって　てん　に　のぼって　いきました。

でも、　ひとりだけ、　ころも　が　みつからない　むすめ　が　いました。

「たしか、　ここ　に　かけて　おいた　のに、　わたし　の　ころも　は　どこ　へ　いってしまった　の？

ころも　が　ない　と、　わたし　は　てん　に　かえれない　わ。　どうしたら　いい　の」

おとこ　は、　なにくわぬかお　で　でていく　と、　むすめ　に　こえ　を　かけました。

「むすめさん、　むすめさん、　どうしたのかい？

そんな　はだか　では　さむかろう。　さあ、　これ　を　きなさい。」

おとこ　は、　じぶん　の　きもの　を　むすめ　に　きせて　やりました。

「いったい、　どうしたんだい？　おまえ　は　どこ　から　きたんだい？」

むすめ　は　なに　も　こたえません。

「いく　ところ　が　ない　のなら、　わたし　の　いえ　へ　おいで」

おとこは、　むすめ　を　じぶん　の　いえ　に　つれて　いきました。

「かあさん、　かあさん。　この　むすめさん　は、　どこ　にも　いく　ところ　が　ない　ようだ。

うち　に　おいて　あげよう」

「おやおや、　かわいそう　に。

それにしても、　おまえ　には、　もったいない　ような　きれい　な　むすめさん　だ　ね。」

おとこ　の　おかあさん　は、　むすめ　を　やさしく　むかえて　くれました。

その　すき　に、　おとこ　は　むすめ　の　ころも　を、　そっと　とだな　の　おく　に　かくしました。

おとこは、　むすめ　を　およめさん　に　して、　なかよく　くらしました。

うつくしい　およめさん　を　もらった　おとこ　は、　はりきって　いっしょうけんめい　はたらき、　およめさん　も　はたけ　や　いえ　の　しごと　を　いっしょうけんめい　てつだいました。

そして、　かわいい　おとこのこ　が　うまれました。

こうして、　たのしく　くらして　いました。

あるひ、　おとこ　が　さかなとり　に　でかけて　いる　あいだ　に、　いえ　を　そうじ　していた　およめさんは、　とだな　の　おく　から、　じぶん　の　ころも　を　みつけました。

「これは、　わたし　の　ころも　だ　わ。　わたし　の　ころも　を　かくした　のは、　あの　ひと　だった　の　ね。

なんと　いう　こと　を　したんでしょう。　わたしは、　どうしたら　いいのかしら」

おとこ　が　さかなとり　から　かえって　くる　と、　およめさん　が　あの　ころも　を　きて、　いえ　の　まえ　に　たって　いました。

「あなたが、　わたし　の　ころも　を　かくして　いたのです　ね。

ころも　が　あるなら、　わたし　は　てん　に　かえらなければ　なりません。

せっかく、　こども　まで　でき、　たのしく　くらして　いた　のに…」

「ごめん　よ。　おまえ　を　どうしても　てん　に　かえしたく　なかったんだ　よ。　だから　だまって　いたんだ。

どうか、　このまま　かぞく　いっしょ　に　くらして　おくれ。」

けれど、　およめさん　は　いいました。

「わたし　も、　いつまでも　いっしょ　に　みんな　で　くらして　いたい　の　です。

けれど、　ころも　が　あるので　てん　に　かえらないと　なりません。

どうか、　こども　を　たいせつ　に　して　ください。」

そう　いう　と、　およめさん　は、　てん　に　のぼって　いって　しまいました。

 

おしまい