あかとんぼ　は、　さんかい　ほど　そら　を　まわって、　いつも　やすむ　いっぽん　の　かきね　の　たけ　の　うえ　に、　ちょい　と　とまりました。

やまざと　の　ひる　は　しずか　です。

そして、　しょか　の　やまざと　は、　ほんとう　に　みどり　に　つつまれて　います。

あかとんぼ　は、　くるり　と　めだま　を　てんじました。

あかとんぼ　の　やすんで　いる　たけ　には、　あさがお　の　つる　が　まきついて　います。

さくねん　の　なつ、　この　べっそう　の　しゅじん　が　うえて　いった　あさがお　の　むすんだ　み　が、　また　はえたんだろう――　と　あかとんぼ　は　おもいました。

いま　は　この　いえ　には　だれ　も　いない　ので、　あまど　が　さびしく　しまって　います。

あかとんぼ　は、　つい　と　たけ　の　さき　から　からだ　を　はなして、　たかい　そら　に　まいあがり　ました。

さん、よにん　の　ひと　が、　こっち　へ　やってきます。

あかとんぼ　は、　さっき　の　たけ　に　また　とまって、　じっと　ちかづいて　くる　ひとびと　を　みて　いました。

いちばん　さいしょ　に　かけてきた　のは、　あかい　りぼん　の　ぼうし　を　かぶった　かあいい　おじょうちゃん　でした。

それから、　おじょうちゃん　の　おかあさん、　にもつ　を　どっさり　もった　しょせい さん――　と、　こう　さんにん　です。

あかとんぼ　は、　かあいい　おじょうちゃん　の　あかい　りぼん　に　とまって　みたく　なりました。

でも、　おじょうちゃん　が　おこる　と　こわい　な――　と、　あかとんぼ　は　あたま　を　かたげました。

けど、　とうとう、　おじょうちゃん　が　まえ　へ　きた　とき、　あかとんぼ　は、　おじょうちゃん　の　あかい　りぼん　に　とびうつり　ました。

「あっ、　おじょうさん、　ぼうし　に　あかとんぼ　が　とまりました　よ。」　と、　しょせいさん　が　さけびました。

あかとんぼ　は、　いま　に　おじょうちゃん　の　て　が、　じぶん　を　つかまえ　に　きやしないか　と　おもって、　すぐ　とぶ　ようい　を　しました。

しかし、　おじょうちゃん　は、　あかとんぼ　を　つかまえよう　と　も　せず、

「まぁ、　あたし　の　ぼうし　に！　　うれしいわ！」　と　いって、　うれしさ　に　とびあがりました。

つばくら　が、　かぜ　の　ように　かけて　いきます。

かあいい　おじょうちゃんは、　いままで　あきや　だった　その　いえ　に　すみこみました。

もちろん、　おかあさん　や　しょせいさん　も　いっしょ　です。

あかとんぼ　は、　きょう　も　そら　を　まわって　います。

ゆうひ　が、　その　はね　を　いっそう　あかく　しています。

「とんぼ　とんぼ　あかとんぼ　すすき　の　なか　は　あぶない　よ」

あどけない　こえ　で、　こんな　うた　を　うたって　いる　のが、　きこえて　きました。

あかとんぼ　は、　あの　おじょうちゃん　だろう　と　おもって、　そのまま、　こえ　の　する　ほう　へ　とんで　いきました。

おもった　とおり、　うたってる　のは、　あの　おじょうちゃん　でした。

おじょうちゃん　は、　にわ　で　ぎょうずい　を　しながら、　ひとり　うたってた　の　です。

あかとんぼ　が、　あたま　の　うえ　へ　くる　と、　おじょうちゃん　は、　もってた　おもちゃ　の　きんぎょ　を　にぎった　まま、

「あたし　の　あかとんぼ！」　と　さけんで、　りょうて　を　たかく　さしあげ　ました。

あかとんぼ　は、　とても　ゆかい　です。

しょせいさん　が、　しゃぼん　を　もって　やってきました。

「おじょうさん、　せなか　を　あらい　ましょう　か？」

「いや――」　「だって――」

「いや！　いや！　おかあさん　で　なくっちゃ――」

「こまった　おじょうさん。」

しょせいさん　は、　あたま　を　かきながら　あるきだし　ました　が、　あさがお　の　は　に　とまって、　

ふたり　の　はなし　を　きいてる　あかとんぼ　を　みつける　と、　みぎて　を　おおきく　ぐるーっ　と　いっかい　まわしました。

みょう　な　こと　を　する　な――　と　おもって、　あかとんぼ　は　その　ゆびさき　を　みて　いました。

つづけて、　ぐるぐる　と　しょせいさん　は　みぎて　を　まわします。

そして、　だんだん、　その　えん　を　ちいさく　して　あかとんぼ　に　ちかづいて　きます。

あかとんぼ　は、　おおきな　め　を　ぎょろぎょろ　うごかして、　しょせいさん　の　ゆびさき　を　みつめています。

だんだん、　えん　は　ちいさく　ちかく、　そして　はやく　まわって　きます。

あかとんぼ　は、　めまい　を　して　しまいました。

つぎ　の　しゅんかん、　あかとんぼ　は、　しょせいさん　の　おおきな　ゆび　に　はさまれて　いました。

「おじょうさん、　あかとんぼ　を　つかまえました　よ。　あげましょう　か？」

「ばか！　あたし　の　あかとんぼ　を　つかまえたり　なんか　して――　やまだ　の　ばか！」

おじょうちゃん　は、　くち　を　とがらして、　ゆ　を　しょせいさん　に　ぶっかけました。

しょせいさん　は、　あかとんぼ　を　はなして　にげて　いきました。

あかとんぼ　は、　ほつ　と　して　そら　へ　とびあがり　ました。　いい　おじょうちゃん　だ　な、　と　おもいながら――

そら　は　まっさお　に　はれて　います。　どこまでも　すんで　います。

あかとんぼ　は、　まど　に　はね　を　やすめて、　しょせいさん　の　おはなし　に　みみ　を　かたむけて　います、　かあいい　おじょうちゃん　と　おなじ　ように。

「それから　ね、　その　とんぼ　は、　おこって　おおぐも　の　やつ　に　くいかかりました。

くいつかれた　おおぐも　は、　いたい！　いたい！　たすけて　くれ　って　ね、　おおごえ　に　さけんだ　の　です　よ。

すると、　でてきた　わ、　でてきた　わ、　ちいさな　くも　が、　くも　の　ように　でてきました。

けれども、　とんぼ　は、　もともと　つよいんです　から、　かたはし　から　くも　に　くいついて、　とうとう　いっぴき　のこらず　ころして　しまいました。

ほつ　と　して　その　とんぼ　が、　じぶん　の　すがた　を　みる　と、　これ　は　まあ　どうでしょう、　くも　の　ち　が、　まっか　に　ついてる　じゃ　ありません　か。

さあ　たいへんだ　って、　とんぼ　は、　いずみ　へ　とんで　いって、　からだ　を　あらいました。

が、　あかい　ち　は　ちっとも　とれません。　で、　かみさま　に　おねがい　して　みる　と、　

おまえ　は、　つみ　の　ない　くも　を　たくさん　ころした　から、　その　たたり　で　そんな　に　なったんだ　と、　しかられて　しまいました。

その　とんぼ　が　いま　の　あかとんぼ　なんです　よ。　だから、　あかとんぼ　は　よくない　とんぼ　です。」

しょせいさん　の　おはなし　は　おわりました。

わたし　は、　そんな　むごい　こと　を　した　おぼえ　は　ない　が　と、　あかとんぼ　が、　くび　を　ひねって　かんがえました　とき、　おじょうちゃん　が　おおごえ　で　さけびました。

「うそ　だ　うそ　だ！　　やまだ　の　おはなし　は、　みんな　うそ　だ　よ。

あんな　かあいらしい　あかとんぼ　が、　そんな　むごい　こと　を　する　なんて、　くも　の　あかち　だ　なんて――　みんな　うそ　だ　よ。」

あかとんぼ　は、　ほんとう　に　うれしく　おもいました。

れい　の　しょせいさん　は、　かお　を　あかく　して　いって　しまいました。

まど　から　はなれて、　あかとんぼ　は、　おじょうちゃん　の　かた　に　つかまりました。

「まあ！　あたし　の　あかとんぼ！　かあいい　あかとんぼ！」

おじょうちゃん　の　ひとみ　は、　くろく　すんで　いました。

あつかった　なつ　は、　いつのまにか　すぎさって　しまいました。

あさがお　は、　かきね　に　まきついた　まま、　しおれました。

すずむし　が、　すずしい　こえ　で　なく　ように　なりました。

きょう　も、　あかとんぼ　は、　おじょうちゃん　に　あい　に　やってきました。

あかとんぼ　は、　ちょっと　びっくり　しました。

それは、　いつも　ひらいて　いる　まど　が、　みな　しまって　いる　から　です。

どうしたのかしら？　と、　あかとんぼ　が　かんがえた　とき、　げんかん　から　だれ　か　とびだして　きました。

おじょうちゃん　です。　あの　かあいい　おじょうちゃん　です。

けれども、　きょう　の　おじょうちゃん　は、　かなしい　かおつき　でした。

そして、　この　べっそう　へ　はじめて　きた　とき　かぶってた、　あかい　りぼん　の　ぼうし　を　つけ、　きれい　な　ふく　を　きて　いました。

あかとんぼ　は　いつも　の　ように　とんで　いって、　おじょうちゃん　の　かた　に　とまりました。

「あたし　の　あかとんぼ……　かあいい　あかとんぼ……　あたし、　とうきょう　へ　かえる　の　よ、　もう　おわかれ　よ。」

おじょうちゃん　は、　ちいさい　ほそい　こえ　で　なく　ように　いいました。

あかとんぼ　は　かなしく　なりました。　じぶん　も　おじょうちゃん　と　いっしょ　に　とうきょう　へ　いきたい　な　と　おもいました。

そのとき、　おじょうちゃん　の　おかあさん　と、　あかとんぼ　に　いたずら　を　した　しょせいさん　が、　でて　まいりました。

「では　まいりましょう。」　　みな、　あるきだし　ました。

あかとんぼ　は、　やがて　おじょうちゃん　の　かた　を　はなれて、　かきね　の　たけ　の　さき　に　うつりました。

「あたし　の　あかとんぼ　よ、さようなら――」

かあいい　おじょうちゃん　は、　なんべん　も　ふりかえって　いいました。

けど、　とうとう、　みな　の　すがた　は　みえなく　なって　しまった　のです。

もう、　これから　は、　この　いえ　は　あきや　に　なる　の　かな――　あかとんぼ　は、　しずか　に　くび　を　かたむけました。

さびしい　あき　の　ゆうがた　など、　あかとんぼ　は、　おばな　の　ほさき　に　とまって、　あの　かあいい　おじょうちゃん　を　おもいだして　います。